経済成長と株式リターン

2014年09月24日

経済成長と株価リターンの関係について書かれたレポートをいくつか読んだので感想を書きます。

まず両者に関連があるかないかですが、プラスの相関があるというレポートもあれば、相関がないというレポートもあります。

よく見かけるのは、Dimson、Marsh、Stauntonの調査です。クレディスイスの Global Investment Returns Yearbook 2014 の中で21か国を対象に1900-2013年の長期データを使った結果が散布図にされています。

この調査によると、実質株価と実質GDP成長率はプラスの相関となるが、実質株価と1人あたり実質GDP成長率はややマイナスの相関になるそうです。

CSGI (17)

CSGI (16)

世界経済を牽引する成長国・新興国の株式市場というゴールドマンサックスのレポートでは、2011年まで過去23年間の期間における先進国と新興国の名目GDPと株価をグラフにしています。
この期間に先進国の名目GDPは2.2倍・株価は2.6倍、新興国の名目GDPは9.8倍・株価は11.4倍となったことから、レポートは経済成長と株価リターンには明確な正の相関があるとしています。

この調査は経済成長と株価を名目値てシンプルに比べているため投資家の実感に近いと思います。どちらの指数もドル換算なのでインフレも考慮されているはずです。
ただ、比較しているのはMSCI世界指数とMSCI新興国指数という2つの指数だけですし、期間がちょっと短いです。




Vanguard の The outlook for emerging market stocks in a lower-growth world では46か国を対象に1970年~2012年の期間(スタート年は国によって異なる)における実質GDP成長率と実質株価リターンを比較しています。
相関はわずかなプラスですが、ほぼ無関係といっていいレベルです。





他には、Is There a Link Between GDP Growth and Equity Returns? で先進8か国を対象に1958年~2007年&2008年の期間における実質GDP成長率と実質株価リターンを調べており、この結果はマイナスの相関となっています。




最後にこちらのHPでは14か国のMSCI指数と名目・実質GDPを比較しており、名目GDPと名目株価リターンはかなり強い関係があるとのことです。
ただし、管理人の方も書いてますが、為替レートを調整した後でリターンがどうなるかは不明です。普通に考えればインフレ率が高い国は名目GDP・名目株価リターンは高くなるので、名目値で比較するならば為替を考慮する必要があると思います。
また、実質GDPと実質株価リターン(名目株価-(名目GDP成長-実質GDP成長))を比べると相関は弱まるように見えます。




いくつか見ましたが、対象としている国や期間によって結果はかなり変わってしまいます。経済成長と株価リターンの間にはっきり断定できるほど明確な関係を見つけるのは難しそうで、仮にプラスの相関があるとしても弱い相関になるのかなと思いました。


次に理屈の話です。
経済成長が株価上昇に結び付くメカニズムは単純ですが説得力があります。
ある国のGDPの成長するとその国の企業の収益が伸び、企業収益が伸びれば1株あたり利益も増加し、1株あたりの利益が増加すれば株価が上がる、という話です。

実際、Earnings Growth: The Two Percent Dilution によると、1929年以降のアメリカのデータでは、大恐慌を除くと企業収益はGDPと同じような値で伸びているそうです。




しかし、新規上場や既存の会社の増資による新株発行効果があるため、1株あたり利益や配当の伸びは経済成長率ほど伸びません。希薄化効果により米国株の1株あたり利益の伸びは経済成長率を年に2%ほど下回ってしまうとのことです。




希薄化効果が他の国でどれくらい生じるのかははっきりしませんが、Vanguard のレポートの中に先進国と新興国の時価総額の増加に占める新株発行効果を比較したグラフがあります。
それによると、1995年~2012年の期間では、先進国は時価総額7.2%の増加のうち1.4%が、新興国は時価総額12.7%の増加のうち7.4%が新株発行によるものだったそうです。

新株発行による希薄化という条件はどの国も同じですが、希薄化の大きさばらつきがあるのであれば経済成長と株価リターンの相関が低いことの理由のひとつになりそうです。




先進国と新興国のGDPとEPSの比較は Does economic growth drive emerging market equity returns? にもあります。ここでも新興国のEPS成長と株価リターンはGDP成長ほど大きく伸びていないことが示されています。




経済成長率と株式リターンにギャップがある理由としては、新株発行による希薄化以外にも下のような説明を見ました。

・貿易や海外売上高の存在。特に時価総額の大きいグローバル企業は海外売上高が大きい。

・経済全体と株式市場のセクター構成比率の違い。例えばシンガポールや香港の株式市場は銀行や金融セクターの割合が高すぎる。中国の株式市場では国有企業の割合が大きすぎる。

・統計の信頼性問題。中国のGDP成長率は平坦すぎる。

・新興国の企業(特に中国の国営企業)は利益の最大化を追求していないのかもしれない。

・PERの変化。株式市場は経済成長を織り込んでしまう傾向がある。

こんな感じで、経済成長と株式リターンの関係についてはなかなか複雑で単純化できません・・・。

とはいえ、だからといって経済成長を無視していいかというとためらってしまいます。
下のグラフは日本の名目GDPと法人企業統計の売上高と経常利益の推移をグラフにしたものです。法人企業統計は全産業(金融業除く)・全規模の数字です。

これを見ると、経常利益は利益率の向上によりバブル期を超えていますが、売上高は名目GDPとほぼ同じ動きで、ここ20年ほどは横ばいで推移しています。利益率が永遠に改善し続けるのは無理なので、法人企業統計の数字については結局のところ名目GDPの制約を受けてしまうように思えます。






上にも書いたように、経済全体の構成比と株式市場の構成比は違いますし、特に大企業は海外売上高が大きいので、法人企業統計の数字を単純に株式市場に適用することはできないのでしょう。しかし、上場企業のEPSがGDPを上回って伸びていくと考えるのも楽観的すぎる気がします。


経済成長と株式リターンの間に明確な相関があるというのは難しいのかもしれませんが、かといってマイナスの相関があるわけでもないです。
他の条件が同じであれば経済成長率の高い国に投資するのは悪いことではないのかなというのが現時点での感想です(とくに低成長リスクのある日本の長期投資家にとっては)。



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