日本政府の財政問題

2015年01月13日

■政府の債務残高

OECDのEconomic outlookによると日本政府の債務残高/GDP比はグロスで見てもネットで見ても最も大きくなっています。過去にはイギリスの政府債務/GDP比率が250%前後まで上がったことがあったそうですが、日本政府の債務はそれに迫る水準です。
ただし、資産を差し引いたネットの債務/GDP比率は140%程度で、依然としてトップですが120%前後のギリシャやイタリアに近い数字です。




グロスで考えるかネットで考えるかは議論のありそうなところです。
資産を差し引いたネットで考えるのが当然と言えばそう思えますが、実際に換金可能な資産は多くないと聞けばそうなのかなとも思ってしまいます。

下の図は「国の財務書類」のポイントという財務省作成の資料ですが、負債と対応している資産もそこそこ多いです。一方で現金化できない資産も相当あるとのことで、どちらの意見もある程度は説得力あるように思えます。




債務の水準よりもまずく見えるのは債務の増え方です。下のグラフは時系列のG7の政府債務GDP比率ですが、日本の増え方が突出しているのがわかります。かつては最低だった日本政府の純債務は、現在ではトップに跳ね上がってしまいました。

ちなみに1997年から2013年までのグロスの比率の伸びは5%以上です。このペースが続けば2019年にGDPの300%を超え、2025年に400%を超えます。日本政府の財政問題についてはいろいろ意見を聞きますが、これを見るとさすがに大丈夫だろうかと心配せざるを得ないです。






■債務の持続可能性

政府債務の維持可能性については、一般に「ドーマーの条件」と呼ばれている定義がわかりやすいと思いました。
これは、プライマリーバランスが均衡している時に名目GDP成長率=名目金利であれば政府の債務GDP比は一定であり、名目GDP成長率<名目金利であれば債務GDP比は増加し、名目GDP成長率>名目金利であれば債務GDP比は減少していくというものです。

プライマリーバランスとは、借金による収入を除く歳入と借金の利子払いを除く歳出との差で、基礎的財政収支と呼ばれます。プライマリーバランスがゼロということは収入と支出が同じということ、マイナスであれば収入以上に支出が大きいということです。この赤字分は債務残高に追加されていきます。

プライマリーバランスがゼロ、つまり収入と支出が同じであっても利払いの分だけ債務残高は増加してしまいます。しかし、GDPが大きくなればそれに合わせて債務/GDP比率は下がります。仮に利子率と経済成長率が共に1%だとすると、債務残高は利子率の1%増えますが、GDPも1%増えるので債務残高/GDP比は変わらないということになります。

ドーマーの条件は、プライマリーバランスが均衡しているときにと始まりますが、プライマリーバランスが多少の赤字であっても経済成長率が金利より大幅に高ければ債務/GDP比率は下がりますし、プライマリーバランスを黒字にしても金利が経済成長率を大きく上回っていれば債務/GDP比率は上がってしまいます。
債務残高/GDPの変化は、プライマリーバランス、名目金利、名目経済成長率、の3つのバランスで決まるという話でしょう。

実際に日本政府の債務増加の要因を、基礎的財政収支、利払い、実質GDP、GDPデフレーター(実質GDPとGDPデフレーターを合わせると名目成長率になる)の4つに分解したグラフが内閣府の年次経済財政報告にありました。
数値がないのでぱっと見た目ですが、財政悪化の主要因は基礎的財政収支でこれが半分以上を占めているのがわかります。デフレの影響としては、90年代半ば以降のGDPデフレーターのマイナス要因への転換がありますが、同時に金利定価による利払い要因の減少も起こっています。




■名目金利と名目経済成長率

プライマリーバランスについては政府の努力しだいという話ですが、名目金利と名目経済成長率の関係については議論があるようです。

下の図は年次経済財政報告に掲載されていた直近20年の日米英欧の名目成長率と名目金利です。デフレ期を除けば、名目成長率が高くなるほど名目金利も高くなっており、単純に経済成長率を上げれば成長率-金利スプレッドが広がるわけでないことがわかります(インフレ率が共通の項目なのである意味当然ですが)。

また、長期的に見て名目成長率は名目金利を上回るかという点については、この資料では名目金利が名目成長率を上回る傾向があるとしています。ただし、これは直近20年のデータです。



1955年以降の日米の名目金利と名目経済成長率の比較では、1980年ごろまでは名目成長率の方が高かったものの、それ以後は名目金利の方が高くなっているそうです。



そのほか、ここここでは竹中・吉川の「成長率>金利」論争が紹介されていますし、こちらのブログではOECD加盟国のデータを使って検証しています。ただ、多くの他の経済的な議論と同じく、この問題もなかなか断定的なことは言えないという感じだと思います。

とはいえ実質経済成長率の低い現在の日本に関して言えば、名目経済成長率が名目金利を大幅に上回るには大きなマイナスの実質金利が必要になるわけで、金利の決定を市場に任せるのであれば長期間にわたってそのような状況を維持するというのはなかなか難しい気がします。
ちなみに内閣府のコラムによると、マイナスの実質金利が継続したのはオイルショックのあった70年代だけです。



ただし、人為的に金利を抑えつけてマイナスの実質金利を維持するという手はありそうです。このコラムによると、第二次大戦後のイギリスは「金融抑圧が採用された結果、公的債務残高の対国内総生産(GDP)比の圧縮に成功した」そうです。

46年に250%超まで膨らんでいた英国の公的債務残高(GDP比)は、実質のマイナス金利を作り出す金融抑圧と高インフレを通じた名目GDPの膨張を通じて大幅に圧縮され、60年には半分以下の109%、80年には5分の1以下の49%へと低下した。ラインハート教授とスブランシア博士の共同研究によれば、45―80年の英国の公的債務削減のうち、実質のマイナス金利を作りだしたことによる効果は、年平均で3.6%に達する。この間、公的債務の対GDP比は年平均8.4%のペースで減少しており、実に4割強が実質のマイナス金利によって調整されたことになる(残りの6割弱は分母の名目GDPが膨らんだ効果である)。



■日本の財政収支

日本の財政収支を見ると、バブル以降に税収が微減する中で歳出は増加し続けており、この結果として財政赤字が慢性化してしまっています。




・歳出

OECD各国と比較すると日本政府の歳出は小~中程度のレベルです。



しかし、時系列でみると歳出の水準も順位も徐々に上がっています。2000年代前半に日本の歳出はG7で最低のレベルでした。



歳出の増加は社会保険料の増加が大きく、これだけ見ると他の先進国並みの水準になっています。高齢化により社会保険料は増加することが見込まれているため、支出を抑えるのはなかなか難しいように思えます。




・歳入

日本政府の歳入はOECD諸国の中でかなり小さいレベルです。歳出は小さいものの、歳入がさらに小さいために財政赤字になっているというのが日本の現状です。歳入が低いため増税余地が大きいというのは強みのひとつです。



時系列に見ると、10年前よりも水準はやや上がっていますが、それでもアメリカと並びG7では最も低い規模を維持しています。



年次経済財政報告から社会保険料と租税負担率のOECD諸国との比較です。社会保険料、法人所得税、資産課税は他の先進国並み、消費税と個人所得税が他の国と比べて低いことがわかります。




■感想

政府の財政問題については、自分の中でまだはっきりとした答えが出ていませんが、何冊か本を読んだり資料を見た感想です。

・資産を差し引いたネットの数字で考えるというのはある程度説得力がありそう。財務省の資料でも350兆円ほどは対応する資産があるとのことなのでグロスの数字ほどひどくはないのかも。ただ、それを差し引いても債務水準が高いレベルなのは間違いない。

・政府がどれだけ借金できるのかは正直よくわからなかった。政府が際限なく借金をしてそれを日銀に引き受けさせればいずれインフレになるのはまちがいない(リフレ派はデフレギャップがなくなるまでは問題ないという認識だと思う)。政府の負債が国内(日銀除く)で消化できていれば問題ないのでは?という点については、直感的には債務が政府部門に集中するのはバランスが悪くなり不安定になりそうな気がするけど、国債の利子は国内に支払われるわけで問題ないといえば問題ない気もする。

・インフレや成長率を上げて債務GDP比を減らす方向を取ったとしても、財政赤字5~10%というのは大きすぎる。中長期的に赤字を減らしていく必要があると思う。ただ、増税をすれば景気が落ち込んでしまうわけで、景気に影響を与えず財政再建するというのはかなり難易度が高そう。

・実現できるかは分からないが、潜在成長率が低い現状では、ある程度高めのインフレと金利抑圧によるマイナスの実質金利で債務を削減していくのが無理がなさそうに思える。歳出を抑制するのも増税よりハードルが低そうだし。



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