株価とインフレ

2015年04月03日

株価とインフレの関係についていくつかレポートを読みました。


■インフレと株価

まずはアメリカの実質株価とインフレ率の長期推移を見てみます。Global Investment Returns Yearbook 2012 にチャートが掲載されていました。



これを見ると、株価とインフレはかなり連動しているように感じます。
二度の世界大戦前後と70年代~80年代にかけての高インフレの期間と、大恐慌によるデフレの期間に株価は低迷している一方で、50年~60年代や90年代の低インフレの期間に株価は好調です。

同じように日経平均とCPIをグラフにしてみます。
戦後の日本の物価はかなり安定しており、10%を超えるインフレは40年代終わり~50年代初めと70年代半ばのオイルショックのみです。
前者の期間はインフレとデフレが混在しているうえに株価データの不足(前年比は50年から)から比較することができませんでした。オイルショックの期間では株価も下落していますが、それ以前の急騰があるため下落相場という印象を持ちにくいです。
そんなわけで、戦後の日本のチャートからはインフレと株価の関係はあまりはっきりしないです。



単独の国ではなく、幅広い国々を使った検証は Global Investment Returns Yearbook 2012 に掲載されています。19か国を対象に112年という長期データを使ってインフレ率と実質株式リターンを調べています。
下のグラフはインフレ率を8分位に区切ったときの株式・債券のリターンです。最上位・最下位はそれぞれ5%、それ以外は15%ごとの区切りになっています。インフレの数字はそれぞれの区間の最低値です。



株式も債券もインフレによってリターンが悪化していることがわかります。インフレが最も激しかった上位5%の区間(インフレ率18%以上)では、実質株価リターンは-12%と大幅なマイナスです。

一方で、デフレの期間では意外にも株式の実質リターンはそれほど悪化していません。ただし、最もデフレの激しかった1%(名目株式リターン-2%・実質株式リターン+19%)を除くと、下位5%の実質株式リターンは+9%と少し落ちるそうです。

グラフを見て分かるように、株式リターンが最も良いのはインフレが低い値のときです。インフレが高くなるとリターンは悪化していき、デフレが激しくなると株式のリターンは債券のリターンを下回ってしまいます。

また、同レポートでは、株価とインフレの関係を数量化するために国を固定した回帰分析も行っています(上のグラフはすべての国のデータを一度に使っている)。その結果によると、インフレと実質株価はネガティブな関係で係数は-0.52だったとのことです。他の条件が同じであればインフレが1%上がると実質株価リターンは0.52%下がることになります。

インフレと株価の関係を調べた論文はかなりあるみたいで、たとえばThe Relationship Between Inflation And Stock Market の Literature Review では20本以上の論文がレビューされてます。ただし、ざっと見たかぎりでは単一の国を対象にしていたりデータの期間が短かったりするのが多いです。また、学術的なためか○○モデルを使用などの難しそうな記述が多く理解しにくい点がありました。
結果としては、いくつかの研究は株価とインフレにネガティブな関係があるとしていますが、明確な関係が見られないという研究もあったりして、他の経済的な問題と同じで明確な結論を下すのはなかなか難しいのかなという感じです。


■インフレとPER

インフレがPERに影響を与えるという話は「バイアンドホールド時代の終焉」という本で初めて読みました。この本によると、PERのトレンドを決めるのはインフレであり、インフレが低位安定しているときにPERは高くなり、極端なインフレ・デフレ期にPERは低くなるそうです。
下のグラフは Crestmont Research に掲載されているインフレとPERの推移グラフと散布図です。



グラフによると、確かに極端なインフレ・デフレ期にはPERが低いことが多く、PERが極端に高いのは物価が低位安定している時期に一致しているように見えます。

ちなみに、PERが10倍を割っているように見えるのは以下の時期です。
・第一次世界大戦後の2桁を超すインフレとデフレの時期
・30年代初めの大恐慌 (10%以上のデフレ)
・第二次世界大戦後のインフレ期
・70年代と80年初めのオイルショック

PERとインフレについての話は Global Investment Returns Yearbook 2013 にもあります。
ここではインフレ率で区分されたPERのヒストグラムが掲載されており、(アメリカ市場のデータでは)歴史的にはインフレ率が2%を切るか4%を超えるとPERが低下していく傾向があるとのことです。



理由としては以下のようなことが書かれていました。

・デフレに入ると価格決定力を得るのが難しくなる。また、30年代に特徴的だがデフレの期間は経済成長率が低いことが多い。

・物価の高騰は経済の過熱と結びついていることが多い。それは短期金利の引き上げから将来のトレンド以下の成長をもたらす。

・インフレが進むほど将来のインフレについての不確定要素が増え、債券の実質金利の上昇につながる。実質金利の上昇は株式の割引率の上昇をもたらす。

なお、PERが低いほどその後のリターンが高いという傾向があるため、高インフレ=低PERという関係は、高インフレ=その後の高リターンという関係も示唆します。
下のグラフは Inflation, Correlation, and Market Valuation に掲載されていたインフレ率とS&Pの7年リターンの散布図ですが、高インフレ期の投資がその後の高リターンをもたらしているのがわかります。



高インフレとデフレの期間にバリュエーションが低く評価されるというのは何となく説得力がありそうですが、データとして提示されているのはアメリカ市場のみなので、他の市場でどこまで成り立つのかは不明なところです。


■インフレと企業収益

インフレに並行して物やサービスの値段が上がればインフレは企業収益に影響を与えないはずです(税金は別)。現実はどうなっているのでしょうか。
Inflation and equity returns: what’s the link? にインフレと(名目の)企業利益の時系列グラフがありました。



これによると、ある期間では企業収益はインフレと同じように伸びるものの、そうでない期間もあるそうです。インフレ率が高く企業収益が伸び悩んだときには、株価の下落を引き起こすことがあるとのこと。

インフレと企業収益についてなかなか資料が見つからなかったので、シラー教授のデータを使ってインフレ率とS&Pの一株あたりの利益を散布図にしてみます。

・インフレ率と1株利益 (1872~2011年) 左が名目利益・右が実質利益



・3年平均のインフレ率と1株利益 (1874~2011年) 左が名目利益・右が実質利益



ぱっと見てわかるように、どれもばらばらといった感じです。期間3年の名目利益がインフレとやや相関してそうですが、相関係数は0.12にすぎません。

ニッセイ基礎研究所の株式投資とインフレというレポートには、インフレと日本株のリターン、またインフレと企業の売上高・当期純利益を比較した結果が載っています。
それによると、インフレと売上高の相関は高いものの、インフレと株式リターン・当期純利益の相関は低い値となっています。




企業利益ではなく、経済成長率(GDP)とインフレについての資料はたくさん見つかります。インフレーションの閾値効果というレポートで(日本語にて)論文がレビューされておりわかりやすいです。

・インフレと経済成長の関係については理論面でも実証面でも明確になっているとはいいがたい。

・インフレの影響はインフレのレベルによって異なるという研究が出てきた。インフレが低い数値では経済に与える影響はほとんどないが、いったんあるラインを超えるとその影響は大きくなるという閾値効果。

・先進国と新興国を分けた閾値の研究では、先進国の方が低く新興国の方が高い値になっていることが多い。下の3つは対象国が多い最近の研究の閾値です。

対象国 対象期間 先進国 新興国
Khan and Senhadji (2000) 140 60~98年 1~3% 7~11%
Kremer Bick Nautz (2011) 124 50~04年 2.53% 17%
Raghbendra Jha and Tu Dang (2011) 213 61~09年 証拠なし 10%


■感想

この種の話は断定的なことを言うのが難しそうです。
ただ、インフレが高くなると株価・PER・経済成長にマイナスの影響があるとする研究はけっこう多いです。逆に明確な関連はないという研究もあるのがやっかいなところですが。
デフレの場合はインフレよりさらに結論が難しそうです。そもそもデフレのサンプルが少ないという問題がありますし、数少ないアメリカのケースは大恐慌という極端な期間にあたります。

まあ、インフレもデフレも物価がコントロールできなくなるような状況では経済的な混乱が起こっているだろうし、そうなっていれば株価にマイナスの影響が出そうなものです。そんなわけで、インフレやデフレが景気後退を伴っているような場合(あるいは経済的な混乱が激しいインフレ・デフレにつながっている場合)は株価は下落するのではないかなと思ってます。




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