バリュエーションと投資タイミング

2015年05月04日

低PERや高配当利回りといったバリュー株のパフォーマンスが平均を上回ることはよく知られています。
では、個別銘柄と同じように株価指数でも低バリュエーションが高リターンを、高バリュエーションが低リターンをもたらすのでしょうか。また、もしそういった傾向があるのならば、バリュエーションが高くなったときに市場から撤退するマーケットタイミングが可能となるのでしょうか。

PERの水準がその後のリターンを左右するという研究では、キャンベル教授とシラー教授の Valuation Ratios and the Long-Run Stock Market Outlook が有名です。
それによると1871~2000年の米国株のデータでは、PER(10年EPSでスムーズ化)の水準によってその後10年の株価リターンを30%説明(R2 statistic)できるとのことです。

シラー教授のデータを2013年まで延長した散布図が下になります。ぱっと見てわかるように、高PERはその後の低リターン、低PERはその後の高リターンを示しています。



PERは他の指標と比較しても株価の予測力が高いというレポートもあります。Vangard の Forecasting stock returns では、1926年からの米国株価に対する15の指標の予測力を検証しています。



このレポートによると、PER10(10年EPSでスムーズ化)のその後10年の株価リターンに対する説明力は43%と他の指標に比べてかなり高い数値です。1年EPSを使用したPERも数値はあまり変わりません。
PERに続くのが、政府債務GDP比率、ブロックモデル(配当利回りと利益成長率のコンビ)、配当利回りといった指標ですが、説明力は2割前後に落ちます。

しかしながら、PERの1年株価リターンに対する説明力はほとんどありません。
実際にシラー教授のデータを使ってPERとその後1年のリターンを散布図にしてみても、結果はほぼランダムといった感じです。



なお、1年期間のリターンをまともに予測できる指標はなく、最も予測力の高い配当利回りやブロックモデル(配当利回りと企業利益成長率のコンビ)でも10%を超える程度の説明力にすぎません。
その他の指標、企業利益の10年&3年平均成長率、実質GDP成長率の10年&3年トレンド、10年債利回り、企業利益GDP比率、FEDモデル(長期債・株価収益スプレッド)、株価上昇率(10年と1年)などは、どれも有効性は低いかまったくないという結果です。

そんなわけで、PERは中長期で見るとある程度の有効性があるものの、短期ではあまり役に立たないようです。今年のリターンがどうなるかという最も関心のある話でPERがほとんど機能しないというのは残念な話です。

さらにがっかりする話はこれだけではありません。Global investment yearbook 2013 には、バリュエーションの有効性について厳しい話がいくつか書かれています。

① 極端なイベントの影響

1900~2012年のデータを使い、アメリカの配当利回り、PER、イギリスの配当利回りと株価リターンを回帰分析(Regression analysis)した結果が下のグラフです。
どれもプラスの数字で、たとえばアメリカの配当利回りと1年株式リターンの係数(slope coefficient)は2に近い値となっています。これは1%の配当利回りの上昇が2%のさらなるリターンをもたらすということです。



しかしながら、データから2つの極端なイベントを取り除くとこの数値が大きく下がってしまうそうです。

アメリカの場合、1929~32年の-67%と翌年の+50%、2008年の-39%と翌年の+23%を除くとPERと1年リターンの係数1.49は0.99に、配当利回りと1年リターンの係数1.98は1.46になってしまいます。

イギリスの場合、1920年の-36%と1921~22年の+75%、1973~74年の-74%と翌年の+86%を除くと配当利回りと1年リターンの係数3.31は1.95になってしまいます。

このようにバリュエーションと株価リターンの関係はめったに起きないイベントに大きな影響を受けており、平均への回帰はかなり脆い現象かもしれないという話です。


② グローバルでは相関が弱い

世界20か国と3地域における配当利回りと株価リターン(5年)の散布図が下です。ぱっと見てわかるように相関は低く、決定係数(ajusted R-square)は3.9%にすぎないとのことです。



※なお、PERではなく配当利回りを使っているのは、長期のEPSデータがあるのはアメリカだけということと、赤字企業や会計方針などの影響で利益は正確に実態をあらわしているか疑問(多国間であればなおさら)であるという理由です。配当利回りとPERはアメリカのデータではほぼ連動しているとのこと。

回帰分析の結果が下のグラフです。
まずはアメリカやイギリスはバリュエーションが良く機能していた市場であることがわかります。23の国・地域のうち、イギリスは上から3番目、アメリカは5番目です。
多くの国は2か国よりも低い数値で、アメリカを除く世界(World ex-USA)では0.9とアメリカやイギリスの半分程度にすぎない値とのことです。1%の配当利回りの上昇が0.9%の株価リターンの上昇しかもたらさないことになります。




③ あと知恵の可能性

実際にその時点で利用可能なデータのみを使って配当利回りと株価リターンの関係を調べたのが下のグラフです。
手順としては、まず1919年までのデータを使い1920年~24年のリターンを予測します。次に1920年までのデータを使い1921~25年のリターンを予測します。このプロセスを直近まで繰り返したのち、予測したリターンと実際のリターンを比べるという手法のようです。



グラフを見てわかるように、配当利回りとリターンの関係は完全になくなってしまいました。完璧な予測力を持たず、正確なパラメーターがわからない投資家にとっては、配当利回りによる株価の予測はうまく機能しないということになります。

あと知恵については、素人的な考えですが、データの蓄積が進んだ現在と20世紀前半の予測を一緒にするのはどうかという気もします。
とはいえ、後になってみないと適切なバリュエーションの値はわからないというのは確かにやっかいな問題だと思います。たとえば、1990年以降のシラーPERはほんの一時期を除いて恒常的に長期平均の16.5倍を上回っていますが、実質株価は3倍以上になりました。仮に今後も高PERがずっと続くのであれば、現時点で割高感を感じる20倍のPERも後から振り返ってみると平均程度だったという話になるかも知れません。

ちなみに上の手順を使って、予測されるリターンがマイナスのときに株を売って政府短期債で保有するストラデジーとバイアンドホールドを比較したのが次のグラフです。すべての国でマーケットタイミングがバイアンドホールドを下回っています。




ざっと見てきましたが、PERや配当利回りと株価リターンについては、米国市場の中長期ではあるていどの有効性がありそうなものの、短期では役に立たない、他国では効果が低い、後知恵バイアスの問題、といった点から言われているほどには参考になりそうにないかなという感想です。

しかしながら、良い話も書かれていました。Global investment yearbook 20112014 に書かれているローテーション戦略(配当利回り上位の国々に投資して定期的にリバランスする手法)です。

2011では、先進19か国の111年のデータを使用した1年単位の配当ローテーションストラデジーの検証結果が掲載されています。通期で見ても、あるいは四半世紀で見ても、高配当利回りの国が低配当利回りの国をアウトパフォームしているのがわかります。




2014で検証されているのは、新興国市場を含む85か国でのローテーション戦略です(赤色の棒グラフ)。期間は1976年から2013年とやや短いですが、上と同様に高配当利回りの国が低配当利回りの国を上回っています。



低バリュエーションの国に投資するローテーションストラデジーはデメリットが少ないと思います。
バリュー効果があるとすれば超過リターンを得られる一方で、仮に市場が効率的でバリュー効果がなかったとしてもバイアンドホールドのリターンを下回ることはありません。どちらにしても分散投資の効果は得られます。




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