The next economic disaster

2015年04月17日


The Next Economic Disaster: Why It's Coming and How to Avoid ItThe Next Economic Disaster: Why It's Coming and How to Avoid It
(2014/07/09)
Richard Vague

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民間債務の重要性について書かれた The next economic disaster を読みました。

この本によると金融危機の原因は民間債務の急激な増加と持続不能な水準であり、政府債務残高、経常赤字、財政赤字、低金利や金利の下落、為替レート、などの指標は危機を予測するのに役に立たないとのことです。
この証拠として、2008年と1929年のアメリカの金融危機、1991年の日本のバブル崩壊の他、世界各国の危機における民間債務の動きをデータとして提示しています。
金融危機が起きてから現在まで政府債務の話(緊縮か拡張かなど)が議論の中心になっていますが、危機の原因が民間債務であることから、民間債務の研究・監視をもっとしっかりしなければならないというのが著者の主張です。

債務の増加が危機を引き起こすというのは他の人も指摘している話ですが、他書と違うのは危機を予測する数字的な条件を設定しているところです(と本人も書いています)。
主要国においては、①民間債務/GDP比が5年で18%以上の上昇、②民間債務/GDP比の水準が150%以上、の2つの条件を満たしたときに金融危機が起きる可能性が極めて高いとのことです。

2章では金融危機に対処する政策について書かれていますが、こちらはデータに基づいたものではないです。

民間債務が危機の原因というのはシンプルでわかりやすい話ですし、データも提示されていて面白かったです。数値が明確なのも実用性がありそうで良いと思いました。
しかし、アマゾンのレビュー数は29個と多くなく、評価もそこまで高くない感じです。著者が学者ではないことや、「国家は破綻する」のようにデータの使い方に厳密な定義がされていないことが問題なのかなという気がしました。


以下はもう少し詳しいメモです。


○民間債務の伸びとGDP成長率

民間債務の伸びは経済成長率と連動している。政府債務は連動していない。AppendixAに日本と中国のグラフもあり。




○危機を引き起こす原因

債務の増加が危機を引き起こすメカニズムは単純。
民間債務の増加は通常は経済成長を助けるが、過度な貸出ブームが起きると民間債務/GDP比が上昇するとともに質の悪い債務が増加する。債務が積み重なって維持できなくなると金融危機が起きる。その後は過剰な債務を解消するために長期にわたる経済成長率の低下が起きる、といった感じ。

2008年のアメリカの金融危機における民間債務と政府債務の推移。2002年~2007年までに民間債務はGDP比で20%増加し、全体の水準はGDP比170%に達した。一方で政府債務は危機までにそれほど増加していない。



その他の危機における民間債務の推移はAppendixCDebt Snapshots forLarge EconomiesDebt Snapshots for Other Economiesに掲載されている。


○検証

主要22か国を対象に民間債務と危機の検証がされている。詳しい結果はAppendixEに掲載。

・22の国は世界のGDPの81%を占める。小国を対象にしない理由は、それらの国でも民間債務が重要なことに変わりはないが、対外債務や為替レートなど他の要因に影響を受けやすいため。

・世界各国で起きた危機の一覧はAppendixHにある。Laeven and Valencia Crisis Rist とあるので誰か他の人が作成したリストみたい。1970年代後半からの危機。


検証は3通りされている。

① 22か国で起きた危機のうち、民間債務/GDP比が5年で18%以上増加しているか

22か国で起きた危機は27回で、そのうち民間債務のデータがあるのは22個。22個の危機のうち19個は5年で18%以上の債務の伸びがあった。債務の増加が見られなかったのは2008年のドイツとスイス、1993年のインド(比較的小さい経済)。


② 1. 民間債務/GDP比が5年で18%以上の上昇、2. 民間債務/GDP比の水準が150%以上、の条件を満たした国で危機またはGDPのマイナス成長が起きたか

2000年以前でこの条件を満たしたのは6回。そのうち、ノルウェー、スウェーデン、日本、韓国で危機が起きており、スイス、カナダではGDPのマイナス成長が起きた。だましはなし。

2000年以後では、11回のうち9回は危機かGDPのマイナス成長。どちらも起きなかったのはオーストラリアと韓国でいずれも2000年代後半。スイスのみ民間債務の増加抜きで危機が起きた(2008年)。2001年のノルウェイを除いてすべて2007-08年関連。


③ 1. 民間債務/GDP比が5年で18%以上の上昇、2. 民間債務/GDP比の水準が100-150%、の条件を満たした国で危機またはGDPのマイナス成長が起きたか

民間債務の水準を100-150%にすると予測力が落ちる。13回のうち10回は危機かGDPのマイナス成長が起きた。外れは3回。ドイツは民間債務の増加なしに危機が起きた(2008年)。


・①の検証で、危機に対して民間債務の急増だけを条件にしているのはやや恣意的な気がします(債務の水準は条件に入れていない)。

・22回の危機のうち10回が2007年~2008年に集中しています。集中しているがゆえに大不況になったと言えますが、ちょっと偏りがある気はします。

・危機がどれくらいの規模を指しているのか不明です。たとえば1988年のアメリカはブラックマンデーや90年前後のS&L危機に続きますが、景気基準日付では景気後退にすら認定されていません。

・基準がちょっと緩い気がしました。AppendixGに危機前後の民間債務の推移が載っていますが、その期間にGDPの落ち込みが1年でもあればポジティブで評価されています。

・この本が良いのはこれからの予測に役立つことだと思います。2012年の中国の民間債務はGDP比182%で5年間の伸びは54%となっており、著者は警戒を呼び掛けています。




○債務が増えるとなぜ問題なのか

世界の債務は長期にわたる増加トレンド。



アメリカも同じ。1950年にアメリカの民間債務はGDPの55%だったが、2014年にはピークから下がったものの依然として156%という高い水準にある。



誰かの債務は誰かの資産であり、国の債務はネットでゼロとなる。なぜ債務の水準が高くなるとなぜまずいのかという説明はあまりされていない。以下の2点が書かれているくらい。

・負担の不均衡。富は偏向しやすい。債務の増加は経済成長の中心を担う中流・下流の所得グループの負担を重くする。

・債務の増加による金利の負担や債務義務のために、借り手は金利上昇などの経済的なストレスに対して脆弱となる。また、危機において資金を調達しにくくなる。


検証については、正直やや恣意的な面がある気がしました。
金融危機が起こる国にはそれぞれ個別の要因があるし、危機の伝染という面もあるので、そもそも画一的な基準を当てはめるのは難しいのではないかと思います。

ただ、民間債務の急増が危機を引き起こすというのは直観的にわかりやすいし、いくつもデータを提示しているので(厳密な正確性はわかりませんが)おおまかなところでの説得力は十分にあるように思えました。現在中国の債務急増を指摘しているので、これがどういう結果となるか注目していこうと思います。




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