移動平均線を使ったタイミング戦略

2015年06月12日

前回は移動平均線を使ったタイミング戦略についてのレポートを紹介しましたが、現実世界ではそんなにうまく機能しないよという話もあります。

The Real-Life Performance of Market Timing with Moving Average and Time-Series Momentum Rules

論文らしく長いうえ内容が難しくよくわからない部分がありました。でも、どんな問題点が挙げられているのはわかります。
・移動平均線の数値が最適化されている可能性。
・現実世界で必要な手数料などの取引コスト。
・税金。
・対象期間。どの期間で見るかによってマーケットタイミングの成績は大きく変わる。具体的には、大恐慌、オイルショック、ITバブル崩壊、リーマンショックの4つの下げ相場で非常に良いパフォーマンスだが、それ以外の期間は概してバイ&ホールドを下回っている。

リンク先の検証では、アウト・オブ・サンプルテストとかちょっと複雑な方法を使ったり、シャープレシオで結果を評価していたりと直感的にわかりにくいところがありました。取引コストだけを加えた結果も税金を考慮した結果もありません。

そこでここでは1950年~2014年のS&P500の月足データ(YahooFinanceからダウンロード)を使って、バイ&ホールドと移動平均タイミング戦略のリターンをシンプルに比較してみます。
条件は、月足終値が移動平均線を下回ったときに現金化する戦略、現金時のリターンゼロ、配当含まず、というものです。

○ 移動平均線の数値

6、8、10、12、14、16か月の移動平均線を使ったタイミング戦略のリターンを比較したのが下のグラフです。最低リターンは6か月移動平均、最高リターンは12か月移動平均で2倍以上の差がついています。



年率換算にすると6か月と12か月の差は1.3%です。
また6か月から12カ月までは直線的にリターンが増えているので、短い月数はいまいちということなのかもしれません。たまに来る下げ相場を避けるという意味では、ある程度長期の移動平均線を使う方が理屈に合っていると思います。
10か月を越えるとほぼ横ばい安定しており、バイ&ホールドの成績といい勝負といった感じです。




○ 手数料

上のレポートでは取引コストを片道0.5%に設定しています。この片道0.5%という取引コストを含めた12か月移動平均のタイミング戦略の結果が下のグラフです。手数料ありの成績は約30%リターンが低下してしまいました。

取引コスト0.5%というのは議論のあるところだと思います。いまはネット証券の手数料が安いですし、流動性の高いETFを取引すれば0.5%ほど大きなコストはかからない気がします。




○ 税金

20%の税金を加えてみた12か月移動平均タイミング戦略の結果が下のグラフです。
税金は利益も損失(還付)も手仕舞いした月に反映する設定です。また、2014年末にマーケットタイミング(税引き)とバイ&ホールドの両方から最終的な税金を差し引いています。

結果は、マーケットタイミング(税引き)の最終利益はバイ&ホールド(税引き)を約40%下回ることになりました。
税金はタイミング戦略にとって大問題です。現実問題として20%の税金が引かれる以上、タイミング戦略でバイ&ホールドのリターンを上回るのはかなり難しくなると思います。
対策としては、使用する移動平均の期間を長くして取引回数を減らすか、確定拠出年金の非課税口座で売買するくらいしょうか。




○ 期間の問題

移動平均のマーケットタイミング戦略は極端な下げ相場に強いものの、平常時のリターンはバイ&ホールドを下回ることが多いという特徴があります。市場が強かった時期と弱かった時期にわけてこの特徴を見てみます。

・1950年~1972年の上昇相場
ところどころ現れる下げ相場で両者は近づいていますが、全体的としてマーケットタイミング戦略はバイ&ホールドを下回っています。



・1972年~1982年の横ばい相場
マーケットタイミング戦略は下げ相場をうまく回避しています。この期間は高インフレに一致するため、現金を短期債で運用していればリターンにもっと差がつくはずです。



・1982年~1999年の上昇相場
この期間ではマーケットタイミング戦略が完全に後れを取っており、最終的に2倍以上に差が開いています。とくに87年以降は12年にわたってほぼ負けっぱなしでかなり厳しい結果です。



・1999年以降
ITバブル崩壊、リーマンショックという2大ベア相場があった時期です。2つの暴落を回避したマーケットタイミングの圧勝となっています。




・日経平均

せっかくなので日経平均に対する12か月移動平均タイミング戦略の結果も見てみます。1950年~2014年の全期間ではタイミング戦略がバイ&ホールドを上回っています。



・1950年~1972年
この期間は上昇相場ですが、60年代に低迷期間があったためかタイミング戦略もバイ&ホールドについていっています。



・1972年~1989年
一本調子の上昇期にはタイミング戦略はバイ&ホールドを下回ってしまいます。15年という期間を取ってもベンチマークに負けるというのは厳しいです。



・1989年~2014年
下げ相場で損失を回避しつつ上げ相場でそれなりのリターンを出しています。それなりに損失も出していますが、かなりうまくやっているように思います。




以上のように、移動平均のマーケットタイミング戦略は下げ相場とくに暴落を回避できるという長所があります。しかし、それ以外の期間では、下落相場からのリバウンドを取り逃がしてしまう、上昇相場での押し目で売らされてしまう、レンジ相場ではじり貧、といった感じでバイ&ホールドを下回ってしまうことが多そうです。税金の問題もあるので、リターンの面でバイ&ホールドに勝つのはちょっと難しいのかなという印象を受けました。
ただ、暴落を回避できるというのは素晴らしいメリットなので、多少の利益を犠牲にしても大きな損失を避けたいという人や株価が高値圏にあって暴落が怖いという人には良い戦略だと思います。
また、退避中の現金をうまく活用できる人や下落相場で別の戦略を持つ人には、バイ&ホールドを上回る成績を出せる可能性がありそうです。




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