ウォール街のモメンタムウォーカー

2015年08月14日

ウォール街のモメンタムウォーカー (ウィザードブックシリーズ)
ウォール街のモメンタムウォーカー (ウィザードブックシリーズ)

株式市場の3大アノマリーのひとつ「モメンタム」について書かれた本です。

内容は、効率的市場仮説の説明、モメンタム戦略の歴史やなぜ機能するかという話、債券・海外株式・コモディティなど各資産クラスの特徴、スマートベータとは何か、絶対モメンタムと相対モメンタム、著者の提唱するデュアルモメンタム戦略、その他モメンタムについてあれこれ、といった感じです。
モメンタムがメインですが、小型株効果やバリュー効果にも触れていますし、ヘッジファンドやCTA(商品投資顧問業者)のパフォーマンスなど幅広い話が書かれていました。

この本の特徴は、アカデミックと実践家の世界の話がバランスよく書かれているところだと思います。
たとえばモメンタムの歴史についての部分では、まず実戦家としてリバモア、ワイコフ、ドレイファス、オニール、ドンチャン、タートルズといった面々の紹介があり、続いてアカデミックの世界の話として、誰が初めてモメンタムの研究を行ったのか、それに対する批判、その後に誰がどんな研究が発表したのか、といったことが解説されています。
著者によるとモメンタムに関する学術論文は300を超えるとのことです。英語の苦手な個人投資家にはとても調べきれない量なので、このように情報をまとめてくれるのはありがたいです。

著者の提唱するデュアルモメンタムですが、相対モメンタムと絶対モメンタムを組み合わせた戦略です。
相対モメンタムとはある資産の値動きが他の資産の値動きと比較して強いか弱いか見る方法、絶対モメンタムとはある資産の価格がその資産の過去の価格と比べて強いか弱いかを見る方法です。
S&P500やACWI(世界株価インデックス)で両者を比較すると、相対モメンタムのほうがリターンは高いものの、絶対モメンタムのほうがボラティリティとドローダウンは低くシャープレシオも高くなるそうです。デュアルモメンタムは、両者の補完的な性格を活かすことで高リターン&低リスクの成績を達成する戦略とのこと。シンプルであいまいな点がないよくできた戦略だと思いました。


○ モメンタムアノマリー

・モメンタムは、米国株と外国株、業種グループ、株価指数、世界の国債、社債、コモディティ、通貨、住宅不動産といったあらゆる市場でうまく機能する(それぞれ根拠とする資料・論文をあげています)。

・モメンタムはビクトリア朝時代のイギリス株でもうまく機能した。1801年からの米国株でも有効。

・アノマリーが発見されたあと、モメンタム以外のアノマリー(バリュー、サイズ、カレンダー効果)は効果が弱くなったが、モメンタムは効果が持続している。


○ なぜ機能するのか

理由ははっきりとは分からないとのことですが、主に2つの考え方があるとのことです。

・リスクをとったことに対する見返り
効率的市場の考え方に一致するが、サイズやバリューといった普通のリスクファクターではモメンタムは説明できないため、まだ発見されていない新しいリスクファクターを見つける必要がある。

・投資家の非合理的な振る舞い
人間の感情バイアス(ディスポジション効果、アンカリング、確証バイアス、群れ行動など)によって市場は最初は過小反応し、のちに遅れて過剰反応を示す。


○ 各資産クラスについての話

債券、海外株式、コモディティ、マネージドフューチャーズ、ヘッジファンド、アクティブ投資信託、個人投資家、といった資産クラスや運用手法のパフォーマンスや特徴が書かれています。どの話も資料を明記しており信頼感がありました。

・コモディティはゼロサムゲーム。かつてコモディティ先物の買い手はシステマティックなロールイールド(ヘッジャーの支払う保険プレミアム)を受け取ることができたが、コモディティが新しい資産クラスとして金融化することによってこれは失われた。ロールイールドは1969年から1992年までの年間平均11%から、2001年以降は‐6.6%になった。

・マネージドフューチャーズやヘッジファンドの成績は期待外れ。

・アクティブ運用の投資信託はインデックスを下回る。

・分析会社のダルバーが毎年発行している「投資家の行動の定量的分析」(2014年)によると、投資信託の投資家も個別株の投資家も債券の投資家もパフォーマンスはインデックスを大きく下回る。アンダーパフォーマンスの主な原因はタイミングの悪い意思決定による。個人投資家は、高値近くで買い底値近くで売る強い傾向がある。

・ディスカウント・ブローカーの個人投資家のデータの分析を踏まえて、以下のように個人投資家の特徴をまとめている。市場ボラティリティに過剰に反応する、ボラティリィティの高い宝くじのような銘柄を保有する、分散化をしない、自信過剰に陥りオーバートレードする、情報面で不利。


○ スマートベータ

従来の株価指数の時価総額加重を使わないルールベースの戦略を表す言葉がスマートベータ、とのことです。いくつかの特徴や問題点を挙げています。

・代替ベータ戦略が時価総額ベータのインデックスをアウトパフォームするのは、バリューファクターや小型ファクターによって説明がつくとの話が3つほど。

・スマートベータはもっと安いコストで複製できるものが多い。たとえばS&P500均等加重インデックスは小型株ETFのパフォーマンスと似通っている。小型株ETFのほうがコストは低い。

・スマートベータは新しい戦略であるため、バックテスト期間が15年と短く効果が十分に証明されていない。


○ サイズ、バリュー、モメンタム

・多くの研究者によると、小型株プレミアムは少なくとも1980年代以降は大幅に減少したとのこと。たとえば、1978年12月から2013年にかけて、ラッセル2000インデックスの年次リターン(12.1%)は大型株のラッセル1000やS&P500インデックス(12.0%)とほぼ同じだった。いまでも存在するサイズ効果は、流動性が低く、トレードが難しい超小型株によってもたらされている。

・有名なファーマとフレンチの研究(1992年と1993年)は、バリュー株が大きなリターンを生み出した1963年から1991年までの期間を対象にしている。イスラエルとモスコウィッツ(2013)によると、1927年から2011年の期間で有意なバリュープレミアムを示したのは最もサイズの小さい小型株のみだった。(バリュー・プレミアムについはそれほど多くは書かれていません。著者はバリュー効果を否定しているわけではない感じですが、アノマリーのキングはモメンタムであるとのことです。)

・イスラエルとモスコウィッツ(2013年)の分析によると、モメンタムプレミアムはすべてのサイズグループとすべてのサブ期間で安定しているとのこと。
彼らによると、ロングオンリーのモメンタムの累積超過リターンは年間平均で13.6%・標準偏差は21.8・シャープレシオは0.62、バリューの超過リターンは平均で12.4%・標準偏差は26.5・シャープレシオは0.47、小型株超過リターンは平均で11.5%・標準偏差は26.3・シャープレシオは0.44だった。


○ デュアルモメンタム

過去20年にわたって研究者たちは相対モメンタムについては徹底的に調べてきたが、絶対モメンタムが研究対象になったのはごく最近のこと。モスコウィッツほか(2012年)、ハースト、オオイ、ペダーセン(2012年)の研究を紹介。

(ACWIを対象とした結果では)相対モメンタムのほうが絶対モメンタムよりもリターンは高いが、ボラティリティは高くドローダウンも大きい。絶対モメンタムのほうがボラティリティとドローダウンは低く、リスク調整ベースでは絶対モメンタムのほうが優れている。

両者を一緒に使うことで、相対モメンタムと絶対モメンタムの補完的性質を活かすことができる。
相対モメンタムを使ってパフォーマンスが良かった資産を選ぶ。次に絶対モメンタムをトレンドフォローフィルターとして使う。

モメンタムのルックバック期間は12か月が最良とする学術誌が多い。
また、個別株を扱うときは直近の週や月を外す研究が多い。これは短期のリバーサル効果や流動性やミクロ構造問題と関係があるとのこと(著者のシステムはインデックスを使うため直近の週や月を外していない)。

1974年から2013年10月にかけてのGEM(グローバル・エクイティ・モメンタム)のパフォーマンス。
GEMのリターンはACWIの2倍(表には載っていないがS&P500のリターンは12.34%)で、最大ドローダウンは3分の1ほどと少ない。






○ その他のモメンタムについての話

・価格モメンタム、利益モメンタム、収益モメンタム
1974年から2007年までの米国株のデータを使って価格・利益・収益モメンタム戦略を調べたチェンらの研究を紹介。
価格モメンタム、利益モメンタム、収益モメンタムの順に利益が大きい。また、ダブルソートはシングルソートを、トリプルソートはダブルソートをアウトパフォームした。

・モメンタムの加速
チェンらの1962年から2011年までの米国株の研究と、ドチャッティーとハーストの1992年から2011年までのオーストラリアの株式市場の調査。
直近でモメンタムが加速している方がリターンが良いという話。

・フレッシュモメンタム
チェンらの1926年から2006年までの米国株の研究によると、フレッシュウィナー(前の12か月は最も強かったが、その前の12カ月は比較的弱かった株)はステールウィナー(前の12か月もその前の12か月も強かった株)をアウトパフォームしたとのこと。




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