リセッションと信用縮小・資産価格の下落

2016年09月20日

リセッションと金融セクターの相互作用について分析した What happens during recessions, crunches and busts? というワーキングペーパー(2008年)を読みました。

OECD21か国を対象に1960年~2007年の期間におけるリセッション・信用縮小・資産価格(住宅・株式)の下落について調べた研究です。リセッションにおける実体経済と金融セクターの関係について多数の国・長期のデータベースを使った研究はあまりないとのことです。

結論ですが、クレジットクランチ(信用の大幅な縮小)や住宅価格の大幅な下落を伴うリセッションは、通常のリセッションよりも落ち込みがひどく期間も長くなるとのことです。特に住宅価格の下落は他のいろいろな変数を調整した後でも一貫して有意で、景気後退に大きな影響を持つとの結果です。

全体にかなり情報量が多いので、興味の引いた部分をメモします。


○ 定義など

・マクロ経済と金融市場の指標は実質ベース。

・信用(credit)は預金銀行の民間セクターに対する債権(defined as claims on the private sector by deposit money banks)。

・マクロ経済や金融市場の山と谷は古典的なビジネサイクルの定義にもとづいて決定(説明や数式あり)。この定義での米国のリセッションはNBERのビジネスサイクル日付と非常に近く、7回のリセッションのうち4回は同じ、他も山と谷の判定で1四半期早いだけとのこと。

・この研究の定義によると、期間中に122のリセッション、112の信用縮小(credit contractions)、114の住宅価格の下落、234の株価の下落があったとのこと。そのうち上位25%をシビアなリセッション、クレジットクランチ、住宅価格・株価の暴落(house or equity price bust)と定義。

・クレジットクランチや資産価格の暴落と同時期、もしくは後に始まったリセッションをそのイベントと関連ありとする。


○ リセッション

中央値で見ると、平均的なリセッションの期間は3四半期、山から谷の実質GDPのマイナスは1.87%、累積損失は3.04%。
シビアなリセッションの期間は4四半期、山から谷の実質GDPのマイナスは4.89%、累積損失は9.94%。

リセッション前後のマクロ・金融指標の前年比推移のグラフあり。
マクロ指標では住宅投資がリセッションに先立って悪化している。金融指標も、信用、住宅価格、株価ともにリセッションに先立って減速・下落している。

株価は、リセッションの1年前から前年比マイナスになっており、リセッションに入って2四半期ほどで底打ちしている。マイナスの底は目視で前年比-15%くらい。リセッション中(リセッション前の下落は含まれない)の山から谷への下落幅は、通常で-5.49%、シビアなリセッションが-15.64%とのこと。
グラフで表示されているのは前年比の数字だけなので、リセッション前後の期間に株価がトータルで何%下落したかはわからない。




○ 信用縮小

中央値で、信用縮小の期間は4四半期、山から谷までの下落幅は4.22%、シビアな信用縮小(クレジットクランチ)の期間は8四半期、下落幅は17.03%。

下のグラフはクレジットクランチの期間における各指標の前年比の推移。
GDPの減速はクレジットクランチの2四半期前から始まり5四半期後まで続くが、前年比でマイナスまでは落ちていない。
株式の下落はクレジットクランチの前から始まっている。前年比の底は目視で-15%くらい。クレジットクランチが始まって2四半期後には底打ちしている。




○ 住宅価格の暴落

中央値で、住宅価格下落の期間は6四半期、山から谷までの下落幅は5.99%、シビアな住宅価格の下落の期間は16.5四半期、下落幅は28.52%。

グラフはシビアな住宅価格下落の期間における各指標の前年比の推移。
GDPの後退・回復はクレジットクランチよりもゆっくりと進行するとのこと。
株式市場は住宅価格の下落に先立って落ちている。底を打つのは住宅価格の下落が始まって1年後で、前年比プラスに転じるのは2年後くらい。マイナスの底は目視で-15%を超えている。長期にわたって下落が続いているのでトータルでのマイナス幅はわからない。




○ 株価の暴落

中央値で、株価下落の期間は5四半期、山から谷までの下落幅は26.58%、シビアな株価の下落の期間は10四半期、下落幅は50.27%。

株価の下落中もGDPや消費が拡大を続けるのはクレジットクランチや住宅価格の暴落のケースと同じ。ただし、先の2つの例と違って投資は減少しない(クレジットクランチや住宅価格の暴落時には投資が減少する)。
株価の下落と実体経済の動きはやや関連が弱いように見えるとのこと。




○ 同時に起きた国の数

リセッションや信用縮小や資産価格の下落は特定の時期に多数の国で同時に起きることが多いというグラフ。

株価はリセッションでもないのに頻繁に多国間で同時に下落している。「ウォールストリートは過去5回のリセッションのうち9回を予測した」という有名な言葉のとおり。




○ リセッションとクレジットクランチ&資産価格の暴落が同時に起きたケース

122回のリセッションのうち、クレジットクランチを伴うのが18回(約6回に1回)、住宅価格の暴落を伴うのが34回(約4回に1回)、株価の暴落を伴うのが45回(約3回に1回)。どれも伴わないリセッションは46回。




○ クレジットクランチや資産価格の暴落を伴うリセッション

リセッションの期間やGDPの下落幅・累積損失は、クレジットクランチや資産価格の暴落を伴うリセッションの方が通常のリセッションよりも長く大きい。さらにクレジットクランチや資産価格の暴落が激しい(上位50%)ほどリセッションの落ち込みも大きくなる。3つの中では株価暴落を伴うリセッションのコストが最も低い。
なおクレジットクランチと資産価格の暴落が同時に起きたリセッション(13回)では、期間5四半期以上、累積損失-6.7%とコストがさらに大きくなる。




○ 感想

信用の大幅な縮小や住宅価格の大幅な下落を伴うリセッションは、通常よりも景気の落ち込みが厳しくなるという話です。直感的には当たり前の話に思えますが、実際のデータで検証するのは大変なだけに労作だと思います。

残念な点は、リセッションの前後で株価がどれくらい下落したのがわからない点です。前年比の推移のグラフとリセッション期間の株価の騰落率しか書かれていません。
前年比だけだとトータルの損失がわかりませんし、株価はリセッション前に下落を始めてリセッションが終わる前に上昇する傾向があるためリセッション期間だけの損益は参考になりません。
株を対象とした研究ではないので仕方ないとはいえ残念なところです。

意外に感じたのは、クレジットクランチや住宅価格の暴落を伴うリセッションでも株価の暴落はあまり起きていないところです。通常のリセッションよりも厳しいはずなので、もっと株価が暴落してもいい気がするのですが。
(クレジットクランチを伴うリセッション18回、うち株価の暴落を伴うのは5回。住宅価格の暴落を伴うリセッション34回、うち株価の暴落を伴うのは13回。)

それとクレジットクランチや資産価格が暴落したときにどれくらいの確率でリセッションが起きるのかという点も知りたかったです。
まあ書いていないものは仕方ないので自分で数字を拾うとこんな感じです。
・信用縮小112回、住宅価格の下落114回、株価の下落234回。
・上位25%なので、クレジットクランチ28回、住宅価格の暴落28回、株価の暴落58回(小数点以下は切り捨て)。
・クレジットクランチを伴うリセッション18回、住宅価格の暴落を伴うリセッション34回、株価の暴落を伴うリセッション45回

住宅価格の暴落は28回しかないのに、住宅価格の暴落を伴うリセッションは34回もあります。これは住宅価格の暴落が平均で18四半期も続くので複数のリセッションと重なる部分が出てくるためでしょう。
どれくらいの頻度で重なりが起きているのか不明なので確かなことはわかりませんが、表面的な数字で見ると住宅価格や株価が暴落するときはリセッションが起きそうかなと思えます。




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